羽子板は美しい図柄で古くから親しまれており、お正月には女の子の無病息災を願って飾ると言う家も多いものです。
多くの人がその由来が日本に古くから伝わる羽根つきである事はよく知っていますが、これと現代のように正月に女の子の無病息災を願うものとは単純に結びつかないと言う人も少なくありません。
そのため、本来は羽根つき遊びで使われていた羽子板をその歴史の中で何らかの形で無病息災を願うものに置き換えて現在に至っていると今日は多いものです。
羽根つき遊びにはどんな意味があったのか?
羽根つき遊びは室町時代から既に行われていたとされていますが、これは単なる遊びではなく、様々な意味がありました。
この時代は現代のように十分に医療が発達していなかったため、様々な病気は邪気がなすものであると言う考え方が広まっており、様々なきっかけでこの邪気を自分の中に取り入れてしまうことから、病気になってしまうと考えられていたのです。
そのため様々な病気にかかってしまった際には祈祷等を行いその邪気を払うことが最も効果的な治療法とされ、これを追い払うための様々な行事が行われていました。
羽根つきもこの邪気を追い払うための1つの大切な行事であり、年の初めにこれを行うことで1年の無病息災を願うと言う意味を込めて行っていたのです。
特にお正月などの季節の変わり目には鬼門と呼ばれる鬼が出入りする門が開くとされており、この際に自分の中に邪気である鬼を招き入れやすくなります。
そのため、この鬼を追い払うことで1年間無病息災であり、また様々な天災を引き起こさないようにすると言う願いが込められていました。
羽を落としてしまったときに顔に墨を塗ると言う風習
これを示す1つのしきたりに、羽を落としてしまったときに顔に墨を塗ると言う風習があります。
羽根つきで羽根を落としてしまうと言う事は邪気払いに失敗したと言う意味合いにとられており、その際には落とした人に入りやすくなってしまうと言う考えがあったことから、顔に墨を塗ってこれを追い払うと言う行為が行われていました。
このようなしきたりを持っている羽根つきの羽子板が徐々に現在のような非常に豪華な飾りに変化したのは、その後宮中で様々な変化が起こったことによります。
室町時代から平安時代に移るにつれ、これまで羽根つきを行っていた女性たちは徐々にその服装がきらびやかになり、外に出て走りまわると言うことがほとんどなくなりました。
平安時代は女性の出で立ちが非常に華やかになっており、十二単に代表されるような非常にきらびやかで重い着物をまとっていることも多かったことから、従来のように羽根つきで魔除けを行うことができなくなっていたのです。
しかし、そのしきたりを途絶えさせてしまうと様々な災害が発生すると考えられていたことから、これまで羽根つきに使用していた羽子板を美しく装飾し、飾りとして身の回りに置くことが広まりました。
これが現代に伝わる羽子板飾りの原型となっています。
羽根つきは無病息災を願う遊びであった
羽根つきが無病息災を願う遊びであった事は、これを行う様々な道具の中にも表れており、例えば羽根の先端には黒い玉が取り付けられており、この部分をついて遊ぶことになりますが、その材質は「無患子」と呼ばれるものです。
これはその字の通り、子供が病気にならないようにと言う願いが込められており、これを地面に落とさないように遊ぶことで、病気にならないように願う思いを込めていたのです。
また羽根がつかれて空を飛ぶ姿が、トンボに似ていたと言うことも1つの理由となっています。
当時様々な病気をもたらす蚊は非常に恐ろしい昆虫と考えられており、これを退治するために様々なことが行われていました。
当時は殺虫剤などはなかったのですが、かやを使用してこれを避けたり、また煙で部屋の中をいぶすなどといったこともよく行われていたのです。
その中でトンボはこの蚊を食べる存在として知られており、そのために無病息災の象徴と扱われていた面がありました。
そのトンボを自由に飛び回らせることで、無病息災を願う気持ちを表現していたとも考えられています。
まとめ
現代では羽根つきはほとんど行われなくなっており、そのためのものを見る事はほとんどありません。
しかし羽子板飾りは、現代でも女の子の健康を願う人形飾りとして広く用いられています。
しかも本来はお正月に飾り付けをするものと考えられてきましたが、現代ではその他の目的でも非常に広く用いられるようになっているのが特徴です。
古くは雛人形等と同じようにある季節になると飾り、これが終わったら速やかにしまわないと様々な災いを起こすと言う考え方が一般的でした。
雛人形の場合はその季節が過ぎていても飾っているといつまでもお嫁に行くことができないと言う説もあったものです。
しかし現代ではその生活様式が大きく変化し、また様々な住宅事情も影響しているためこのようなしきたりを重視する事はほとんどなくなってきました。
インテリアに利用されることも増えており、またこれに適したデザインのものも多く出回っているのが実態です。